トップページに戻ります
ご感想ご意見はこちらへ


炭 太祇(たん たいぎ)の 選句集

   
水語・不夜庵
  都会的で浪漫的な作風
句集『太祇句選』


山路来て向かふ城下や凧の数
行く先に都の塔や秋の空
里の子や髪に結ひなす春の草
下萌や土の裂け目のものの色
芹の香や摘みあらしたる道の泥
見え初めて夕汐みちぬ蘆の角
あらすごや井戸も五月の増さり水
橋落ちて人岸にあり夏の月
白雨や戸さしにもどる草の庵
行く女袷着なすや憎きまで
川風に水打ながす晒しかな
のみきりし旅の日数や香?散
麦を打つほこりの先に婿舅
やさしやな田を植るにも母のそば
早乙女の下りたつあの田この田かな
月かけて竹植し日のはし居かな
いさぎよし鵜の胸分けの夜の水
あつき日に水からくりの濁りかな
くはくらんや一本道の気付針
暮れ行くや余所に施米の置き所
濡るともと幟立てけり朝のさま
ほり上げてあやめ葺けり草の庵
酔ひ臥して一村起きぬ祭かな
くらべ馬顔みえぬ迄誉めにけり
下手乗せて馬も遊ぶや藤の森
草の戸や畳かへたる夏祓へ
閑古鳥二羽と聞きしも一羽かな
移す手に光る蛍や指のまた
静まれば流るる脚やみづすまし
蠅を打つ音や隣りもきのふけふ
さるすべり寺中おほかた見えにけり
西風の若葉押し折るしなへかな
雨重き葉の重なりや若かへで
芍薬の蕋の湧き立つ日向かな
夕顔やそこら暮るるに白き花
盗人に出合ふ狐や瓜畑
あしらひて巻葉添へけり瓶の蓮
わびしげや麦の穂波にかくれ妻
岩角や火繩すり消す苔の花
初秋や障子さす夜とささぬ夜と
八朔や町人ながら京留守居
舟曳きの舟へ来ていふ夜寒かな
寺子屋の門うつ子あり朝寒み
行秋や抱けば身に添ふ膝頭
三日月や膝へ影さす舟の中
よひやみや門に稚き踊り声
駕籠に居て挑灯持つや初あらし
顔出せば闇の野分の木の葉かな
芝居見る後侘しや秋の雨
稲妻やよわりよわりて雲の果
川淀や霧の下這ふ水烟
鉢の子に煮立つ粥や今年米
草の戸の用意をかしやきくの酒
初恋や燈籠に寄する顔と顔
夜の香やたばこ寐せ置庭の隅
薬掘蝮も提げてもどりけり
日は竹に落て人なし小鳥網
ものの葉に魚まとふや下り簗
脱捨てて相撲になりぬ草の上
朝露や菊の節句は町中も
遺言の酒備へけり玉祭
送り火や顔覗きあふ川向ひ
木戸しめて明くる夜惜しむをどりかな
古町の出づるや頼母の顔合せ
里の子もおぼえし所まだら~
椋百羽命拾ひし羽音かな
灯の届かぬ庫裏やきりぎりす
城内に踏まぬ庭あり轡虫
舟寄せて見れば柳の散る日かな
立ち寄れば椎は降り来ぬ雨宿り
夜に入れば灯のもる壁や蔦かづら
もるる香や蘭も覆の紙一重
鬼灯や掴み出したる袖の土産
畠から西瓜くれたる庵主かな
身一つを寄せる籬や種ふくべ
唐辛畳の上へ量りけり
刀豆やのたりと下る花まじり
萩吹くや燃ゆる浅間の荒れ残り
手折りてははなはだ長しをみなへし
浅水に浅黄の茎や蓼の花
眼に残る親の若さよ年の暮
身をよする冬の朝日の草のいほ
つめたさに箒捨てけり松の下
水さしのうつむけてある寒かな
宵やみのすぐれて暗し冬の雨
傘さして女のはしる霰かな
里へ出る鹿の背高し雪明り
長橋の行先かくす雪吹かな
雨水も赤くさびゆく冬田かな
手へしたむ髪のあぶらや初氷
くらがりの柄杓にさはる氷かな
旅の身に添ふや敷寝の駕籠ぶとん
紙子着しおとや夜舟の隅の方
頭巾着て老いぬ夜学の影法師
茎漬や妻なく住むを問ふおうな
餅の粉の家内に白きゆふべかな
膳の時はづす遊女や納豆汁
苞にする十の命や寒鶏卵
身に添ふてさび行く壁や冬ごもり
京の水つかふて嬉し冬籠
埋火に猫背あらはれ給ひけり
淀舟やこたつの下の水の音
あでやかにふりし女や敷炬燵
父と子よよき榾くべし嬉し顔
草の屋の行燈もとぼす火桶かな
勤行に起わかれたる湯婆かな
炉開や世に遁れたる夫婦合
口切のとまり客あり峰の坊
暮れぬとて声かはすなり大根引
鶯に藪の懸菜のにほひかな
麦蒔や声で雁追ふ片手業
魚ぬすむ狐のぞくや網代守
獺に飯とられたる網代畆守
一番は逃げて跡なし鯨突
谷越しに声かけあふや年木樵
ゆきをみる人さわがしや夜の門
勤行の腕の胼やうす衣
煤をはく音せまり来ぬ市の中
節季侯ややむときはやむ物の声
かねてよく顔見られけむ衣配
顔見せや子々孫々も此の桟敷
昼になって亥子と知りぬ重の内
髪おきやうしろ姿もみせ歩く
年とるもわかきはをかし妹が許
声よきも頼もし気也厄払
夜歩行の子に門で逢ふ十夜かな
寒垢離の耳の水ふる勢かな
達磨忌や宗旨代々不信心
しづけしな鳥のうき寝のあちら向
立浪に足見せて行千鳥かな
大食のむかしがたりや鰤の前
ふぐ売にくふべき顔と見られけり
俎板の氷をぬめるなまこかな
二三日ちらでゐにけりかへり花
赤き実と見てよる鳥や冬椿
茶の花や風寒き野の葉の囲み
九年母や住持おはして早五年
枇杷の花咲くや揚屋の蔵の前
川澄むや落葉の上の水五寸
岨行けば音空を行く落葉かな
盗人に鐘つく寺や冬木立
落葉焚く宿やゆゆしき飯の出来
冬枯や雀のあるく樋の中
寒菊や茂る葉末のはだれ雪
寒菊や垣根つづきの庵の数
水仙を生けしや葉先枯るるまで
元日の居ごころや世にふる畳
元朝や鼠顔出すものの愛
鰒喰ひし我にもあらぬ雑煮かな
札受けて春めき居るや草の庵
年玉や杓子数添ふ草の庵
新手きて羽子つき上げし軒端かな
やり羽子や世心しらぬ大またげ
投出すやおのれ引得し胴ふぐり
万歳や飯のふきたつ竃の前
春駒や男顔なる女の子
春駒やよい子育てし小屋の者
七草や兄弟の子の起きそろひ
七草も昼になりけり上手下手
掘川や顔見しりたるわかな摘
鉢の子に粥炊く庵も若菜かな
やぶ入の寝るやひとりの親の側
丸盆に八幡みやげの弓矢かな
小書院のこの夕ぐれや福寿草

トップページに戻ります

[PR]動画