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『天才の勉強術』木原武一 新潮選書


大きくなりすぎた子供  ダーウィン


 最近の日本の学校教育では、個性を育てることがひと
つの目標にかかげられているようであるが、どうも見渡
ところ、教師の側の教育も生徒の側の学習もともに個性
に欠けているように思われる。また、生涯学習も大はや
りであるが、こちらも学校教育や学習塾の延長のような
カルチャーセンターへ行けば事足れりという感じで、何
とも画一的である。
 人によって顔つきや性格が違うように、勉強のしかた
も人さなざまであっていいはずである。どういう方法が
いちばんいいのか、と教育学者が頭をしぼったところで、
すべての人に通用するような最善の方法が見つかるはず
もない。それぞれの人の性格や好み、目標などによって、
さまざまな教育と学習がありうるし、また、学生時代と
社会人になってから、あるいは、定年退職後とではもの
の学び方や姿勢も変わってくる。要は自分にいちばん合
った方法を見つければいいわけであるが、そこでひとつ
参考になるかもしれないのが、たとえば、一生涯を学問
研究にささげた人びとの例である。彼らはものを学び、
ものを考えることを生涯の仕事とした人びとであって、
言うなれば、勉強術のプロである。それぞれ個性的な勉
強の秘訣を身につけた人たちである。なるほど、こんな
ふうな方法もあったのかと、思うだけでも、新しいもの
の見方やものの考え方に目が開けてくるということがあ
るかもしれない。子を持つ親であれば、子供の育て方に
何かヒントが得られるかもしれない。
 どんな子供も、ひょっとしたら歴史に名を残すような
学者や「天才」にならないともかぎらず、そこまで行か
なくても、ものを学ぶことの楽しさをなるべく早い時期
に身につけることこそ、人間の生涯を豊かで幸福なもの
にする有力な資源であることを知れば、自分の子供にふ
さわしい勉強法に思いをめぐらすことは親たる者の重要
な義務であるとわかってくるはずである。
 これからとりあげる、進化論で有名なイギリスの生物
学者チャールズ・ダーウィン(1809〜82)は、若い頃から
長い時間をかけてじっくりと自分自身の個性と好奇心を
育てあげながら、学問に新しい世界を開拓した学者であ
る。彼は自然のさまざまな現象を観察して、自然選択に
よる進化論を考えだしたのであるが、自分自身について
も詳細に観察して、「私は大きくなりすぎた子供のよう
なものだ」と自己分析している。彼の勉強術の秘訣はこ
の言葉に秘められているようである。

   傷つきやすい心  子供の時代は、将来の天才も偉人も凡人も、それほど の違いはないものである。みんなそれぞれ個性的であっ て、将来の天才を予感させるようなすばらしい個性を持 った子供はどの街角にもいるはずである。親の目に自分 の子供が天才的な詩人や画家に見えたとしても何の不思 議もない。事実、彼らはその時はそうだったかもしれな いのだ。

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