「あなたのお子さん、勉強が足りませんね」 けれども、教師の世界はわりあいに甘い世界です。い え、わりあいどころか、非常に甘いこわい世界だと思い ます。なぜこわいかといいますと、第一に教室では、自 分が一人だということです。それから、生徒は何か悪い ことがありますと、自分が悪いと思うようにできている ということです。日本にはそういう伝統があるようです。 「あなたのお子さん勉強が足りませんね」と言うと、お 母さんがたはたいへん恐縮して、家に帰って子どもに勉 強させますから。子どもは、点が悪かったりしようもの なら、「私の勉強が足りないのだ」と思うようにできて います。先生の指導がどうだったかなどと考える、そう いう子はいないのです。かりにいたとしても言いません。 言ってはいけないと考えています。こういうふうに、一 般社会とは全然違って、相手を責めても向こうは怒らな い、そういう習慣になっていますから、教師という仕事 は非常にこわい仕事です。相手が子どもなので、先生の 方が悪くてもわからないのです。 ことに小学校であれば、優しい性格ならば、子どもた ちはだいたいそれで上々になってしまうのです。ところ で「優しくて親切」などというのは「一生懸命」と同じ ことで、あたりまえのことです。その反対だったらどう しましょう。「優しくて親切」などは、長所でもなんで もない、教師としてあたりまえのことです。 そうではなくて、教師は専門家ですから、やっぱり生 徒に力をつけなければだめです、ほんとうの意味で。 |