ことばをおぼえるように音楽をおぼえる モーツァルトの作品の多くは。『レクイエム』と同様、 注文生産であって、彼自身の内的衝動から作曲されたも のはほとんどない、と言われている。彼が心がけたのは、 当時の人びとが望むような音楽をつくることであった。 そのために、彼は心おきなく他人の音楽を利用して、独 特のすばらしい音楽をつくりあげたのである。「模倣」 や「真似」がなければ、モーツァルトの傑作の多くは存 在しなかっただろうと言ってよい。 しかし、それでも、「真似」の天才、モーツァルトと いう見方にまだなじめない方には、アメリカの哲学者エ マソンの次のようなことばを紹介しておきたい。 「真に独創的な人間のみが、他人から借りることを知っ ている」 エマソンはさらにこんなふうに言う――あらゆる本は 引用であり、すべての人間は先祖からの引用であって、 クモのように自分自身の腹のなかから糸をたぐり出して 巣をつくったりするような独創性を求めるとしたら、ひ とりとして独創的天才などいなくなる。もっとも偉大な 天才とは、他人のお蔭をもっとも受けている人間である、 と。 モーツァルトはまさにそういう天才であった。 |
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