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『諸家の俳句』

長閑さや鼠のなめる角田川 一茶 おもしろやことしの春も旅の空 芭蕉 誰がための低きまくらぞ春の暮 蕪村 春の日や暮れても見ゆる東山 一茶 春の夜やぬしなきさまの捨車 暁台 毎年よ彼岸の入りに寒いのは 正岡子規 鶏の座敷を歩く日永かな 一茶 行く春を近江の人と惜しみける 芭蕉 ゆく春やおもたき琵琶の抱ごころ 蕪村 関守の火鉢小さき余寒かな 蕪村 さざ波は立春の譜をひろげたり 渡辺水巴 大原や蝶の出で舞ふ朧月 丈草 ぬかるみに夜風ひろごる朧かな 渡辺水巴 陽炎や名もしらぬ虫の白き飛ぶ 蕪村 春なれや名もなき山の薄霞 芭蕉 馬借りてかはるがはるにかすみけり 蓼太 春風や堤ごしなる牛の声 来山 春雨や蜂の巣つたふ屋ねの漏 芭蕉 春雨や小磯の小貝ぬるる程 蕪村 春の海ひねもすのたりのたりかな 蕪村 故郷やどちらを見ても山笑ふ 正岡子規 ゆきどけや深山曇りを啼く烏 暁台 ふり返る女心の汐干かな 蓼太 山路来て向ふ城下や凧の数 太祇 凧きのふの空のありどころ 蕪村 山門を出れば日本ぞ茶摘うた 菊舎尼 つみ草や背に負ふ子も手まさぐり 太祇 動くとも見えで畑打つ男かな 去来 生きかはり死にかはりして打つ田かな 村上鬼城 何事ぞ花見る人の長刀 去来 ふらここの会釈こぼるるや高みより 太祇 水とりや氷の僧の沓の音 芭蕉 涅槃会やさながら赤き日の光 言水 花咲かぬ片山陰も雛祭 一茶 鶯や餅に糞する縁の先 芭蕉 宵からの雨に蚕の匂ひかな 成美 帰る雁田ごとの月の曇る夜に 蕪村 古池や蛙とび込む水の音 芭蕉 父母のしきりに恋し雉子の声 芭蕉 白魚やさながら動く水の色 来山 うらやまし思ひ切る時猫の恋 越人 蛤の荷よりこぼるるうしほかな 正岡子規 梅一輪一輪ほどの暖かさ 嵐雪 大原や木の芽すり行く牛の頬 召波 木のもとに汁も膾も桜かな 芭蕉 見かへればうしろを覆ふ桜かな 樗良 山路来て何やらゆかしすみれ草 芭蕉 赤い椿白い椿と落ちにけり 河東碧梧桐 よくみれば薺花さく垣ねかな 芭蕉 菜の花や月は東に日は西に 蕪村 これはこれはとばかり花の吉野山 貞室 花の雲鐘は上野か浅草か 芭蕉 くたびれて宿かる頃や藤の花 芭蕉 船頭の耳の遠さよ桃の花 支考 月もややほのかに青き柳かな 青蘿 ほろほろと山吹散るか滝の音 芭蕉 負ふた子に蕨折りては持たせける 暁台 秋ちかき心の寄るや四畳半 芭蕉 大蟻の畳をありく暑さかな 士朗 此あたり目に見ゆるものはみなすずし 芭蕉 短夜や蘆間流るる蟹の泡 蕪村 明易き腕ふと潮匂ある 中塚一碧楼 夏立つや衣桁にかはる風の色 也有 野を庭にして青嵐十万家 蓼太 夏嵐机上の白紙飛び尽くす 正岡子規 しづかさや湖水の底の雲の峰 一茶 薫風や下戸に戻りし老が宿 太祇 五月雨に鳰の浮巣を見に行む 芭蕉 五月雨や大河を前に家二軒 蕪村 市中はものの匂ひや夏の月 凡兆 夕立に走り下るや竹の蟻 丈草 傘さしてふかれに出でし青田かな 白雄 落ち合うて音なくなれる清水かな 蕪村 馬ぼくぼく我を絵に見る夏野かな 芭蕉 うら表おもてはわきて青簾 白雄 汗の香に衣ふるはな行者堂 曽良 行く女袷着なすや憎きまで 太祇 おもしろうてやがて悲しき鵜舟かな 芭蕉 鵜飼の火川底見えて淋しけれ 村上鬼城 目に嬉し恋君の扇真白なる 蕪村 蚊帳くぐる女は髪に罪深し 太祇 行水も日まぜになりぬ虫の声 来山 御手討の夫婦なりしを更衣 蕪村 宇治に似て山なつかしき新茶かな 支考 寂寞と昼間を鮓のなれ加減 蕪村 立ありく人にまぎれて涼みかな 去来 湖の水かたぶけて田植かな 几董 細脛に夕風さはる簟 蕪村 心太逆しまに銀河三千尺 蕪村 花火尽きて美人は酒に身投げけん 几董 虫干や甥の僧訪ふ東大寺 蕪村 老が身の着かへて白き浴衣かな 村上鬼城 吹く風の中を魚飛ぶ御祓かな 芭蕉 草の雨祭の車過ぎてのち 蕪村 鮎くれてよらで過ぎ行く夜半の門 蕪村 蟻の道雲の峰よりつづきけん 一茶 蟻台上に餓ゑて月高し 横光利一 古井戸や蚊に飛ぶ魚の音闇し 蕪村 かたつぶり角ふりわけよ須磨明石 芭蕉 閑かさや岩にしみ入る蝉の声 芭蕉 切られたる夢はまことか蚤の跡 其角 やれ打つな蠅が手をすり足をする 一茶 鎌倉を生きて出でけむ初鰹 芭蕉 目には青葉山ほととぎす初鰹 素堂 草の葉を落つるより飛ぶ蛍かな 芭蕉 ほととぎす大竹藪をもる月夜 芭蕉 谺して山ほととぎすほしいまま 杉田久女 青梅に眉あつめたる美人かな 蕪村 あぢさゐやよれば蚊の鳴く花のうら 暁台 きのふ見し妹が垣根の花あやめ 暁台 うき草や今朝はあちらの岸に咲く 乙由 卯の花や彳(たたず)む人の透き通り 麦水 朝露によごれて涼し瓜の泥 芭蕉 潮ささぬ沢水甘し杜若 言水 竹の子や児(ちご)の歯ぐきの美しき 嵐雪 清滝や波にちり込む青松葉 芭蕉 珍らしや山を出羽(いでは)の初茄子 芭蕉 夏草や兵どもがゆめの跡 芭蕉 木啄も庵は破らず夏木立 芭蕉 酔うて寝むなでしこ咲ける石の上 芭蕉 葉ざくらや南良(なら)に二日の泊り客 蕪村 蓮の香や水をはなるる茎二寸 蕪村 花茨故郷の道に似たるかな 蕪村 駿河路や花橘も茶の匂ひ 芭蕉 方百里雨雲寄せぬ牡丹かな 蕪村 つかみ合ふ子供のたけや麦畠 游刀 夕顔や酔(よう)てかほ出す壁の穴 芭蕉 夕顔のひらきかかりて襞ふかし 杉田久女 絶頂の城たのもしき若葉かな 蕪村 此の道や行く人なしに秋の暮 芭蕉 秋深き隣は何をする人ぞ 芭蕉 朝寒や関の扉の開く音 蝶夢 九月尽遙かに能登の岬かな 暁台 牛部屋に蚊の声闇(くら)き残暑かな 芭蕉 肌寒や霧雨暮るる馬の上 素丸 初秋や小雨ふりこむ膳の上 成美 ひやひやと壁をふまえて昼寝かな 芭蕉 冷やかや人寝静まり水の音 夏目漱石 身にしむや亡妻(なきつま)の櫛を閨に踏む 蕪村 行秋や抱けば身に添ふ膝頭 太祇 よそに鳴る夜長の時計数へけり 杉田久女 立秋の眼に浮みけり湖の雲 士 朗 痩馬のあはれ機嫌や秋高し 村上鬼城 馬の子の故郷はなるる秋の雨 一茶 秋の空昨日や鶴を放ちたる 蕪村 荒海や佐渡に横たふ天の川 芭蕉 十六夜もまだ更科の郡かな 芭蕉 稲妻のかきまぜて行く闇夜かな 去来 霧時雨富士を見ぬ日ぞ面白き 芭蕉 月天心貧しき町を通りけり 蕪村 捨舟に白露みちし朝(あした)かな 闌更 金剛の露ひとつぶや石の上 川端茅舎 後の月葡萄に核(さね)のくもりかな 成美 吹き飛ばす石は浅間の野分かな 芭蕉 名月や池をめぐりて夜もすがら 芭蕉 今日の月馬も夜道を好みけり 村上鬼城 秋の水竹の根がらみ流るなり 暁台 初潮や鳴門の浪の飛脚舟 凡兆 秋の燈やゆかしき奈良の道具市 蕪村 稲刈れば小草に秋の日のあたる 蕪村 物の音ひとりたふるる案山子かな 凡兆 憂き我にきぬた打て今は又止みね 蕪村 新蕎麦や熊野へつづく吉野山 許 六 やはらかに人分け行くや勝相撲 几董 初恋や燈籠に寄する顔と顔 太祇 四五人に月落ちかかる踊かな 蕪村 七夕や賀茂川わたる牛車 嵐雪 人心しづかに菊の節句かな 召波 霊棚の奥なつかしや親の顔 去来 盆ごころ夕がほ汁に定まれり 暁台 桐の木に鶉鳴くなる塀の内 芭蕉 落鮎や日に日に水の恐ろしき 千代女 幾行(いくつら)も雁過る夜となりにけり 青蘿 ただ一羽来る夜ありけり月の雁 夏目漱石 ぴいと啼く尻声かなし夜の鹿 芭蕉 鴫たつや行き尽したる野末より 蕪村 つくつくぼうしつくつくぼうし斗(ばか)りなり 正岡子規 法師蝉しみじみ耳のうしろかな 川端茅舎 行く水におのが影追ふ蜻蛉かな 千代女 蜻蛉(とんぼう)の夢や幾度杭の先 夏目漱石 蓑虫の音を聞きに来よ草の庵 芭蕉 行水の捨て処なき虫の声 鬼貫 京近き山にかかるや渡り鳥 暁台 朝顔に釣瓶(つるべ)とられてもらひ水 千代女 稲つけて馬が行くなり稲の中 正岡子規 星空へひしめく闇の芋畑 長谷川素逝 末枯や国によこたふ最上川 蓼太 ひよろひよろとなほ露けしや女郎花 芭蕉 柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺 正岡子規 菊の香や奈良には古き仏達 芭蕉 黄菊白菊その外の名はなくもがな 嵐雪 草いろいろおのおの花の手柄かな 芭蕉 草の実の袖にとりつく別れかな 凉菟 葛の花水に引きずる嵐かな 一茶 鶏頭の十四五本もありぬべし 正岡子規 新松子にあたり爽ぐ艸の庵 松瀬青々 松笠の青さよ蝶の光り去る 北原白秋 こけさまにほうと抱ゆる西瓜かな 去来 君が手もまじるなるべし花芒 去来 山は暮て野は黄昏の芒かな 蕪村 つたの葉の水に引かるる山辺かな 暁台 青くてもあるべきものを唐辛子 芭蕉 梨むくや甘き雫の刃を垂るる 正岡子規 しら露もこぼさぬ萩のうねりかな 芭蕉 芭蕉野分して盥に雨を聞く夜かな 芭蕉 うつろへるほど似た色や藤袴 北枝 亀甲(きつかふ)の粒ぎつしりと黒葡萄 川端茅舎 月満ちて夜の芙蓉のすわりけり 暁台 道のべの木槿は馬に喰はれけり 芭蕉 船寄せて見れば柳の散る日かな 太祇 蘭の香や蝶の翅(つばさ)にたきものす 芭蕉 蘭の香や菊より暗きほとりより 蕪村 海の音一日遠き小春かな 暁台 塩鯛の歯ぐきも寒し魚の店(たな) 芭蕉 何にこの師走の市に行く烏 芭蕉 米くるる友どち持ちて年の暮 蝶夢 はつ冬の山々同じ高さかな 鳳朗 冬の日や馬上に氷る影法師 芭蕉 呼びかへす鮒売見えぬ霰かな 凡兆 玉霰幽(かす)かに御空奏(みそらかな)でけり 川端茅舎 笹の葉に西日のめぐる時雨かな 才麿 霜百里舟中(しうちゅう)に我月を領す 蕪村 この木戸や鎖(ぢゃう)のさされて冬の月 其角 寒月や我ひとり行く橋の音 太祇 淋しさの底ぬけてふるみぞれかな 丈草 下京や雪つむ上の夜の雨 凡兆 旅に病んで夢は枯野をかけ廻る 芭蕉 捨舟の内そと氷る入江かな 凡兆 氷上にかくも照る星あひふれず 渡辺水巴 めぐり来る雨に音なし冬の山 蕪村 風邪の子や眉にのび来(き)しひたひ髪 杉田久女 住みつかぬ旅の心や置炬燵 芭蕉 更くる夜や炭もて炭をくだく音 蓼太 炭つげばまことひととせながれゐし 長谷川素逝 人に家を買はせて我は年忘 芭蕉 蒲団着て寝たる姿や東山 嵐雪 金屏の松の古さよ冬籠 芭蕉 不二(ふじ)を見て通る人あり年の市 蕪村 芭蕉忌や香もなつかしきくぬぎ炭 成美 山国のまことうす日や翁の忌 長谷川素逝 海くれて鴨の声ほのかに白し 芭蕉 暁や鯨の吼(ほ)ゆる霜の海 暁台 鷹一つ見付けてうれし伊良古崎 芭蕉 立つ浪に足見せて行く千鳥かな 太祇 生きながら一つに氷る海鼠かな 芭蕉 あら何ともなやきのふは過てふくと汁 芭蕉 水鳥や舟に菜を洗ふ女あり 蕪村 西吹けば東にたまる落葉かな 蕪村 わが歩む落葉の音のあるばかり 杉田久女 枯蘆の日に日に折れて流れけり 闌更 枯草と一つ色なる小家かな 一茶 草枯れて石のてらつく夕日かな 村上鬼城 寒菊や粉糠のかかる臼の端 芭蕉 赤き実と見てよる鳥や冬椿 太祇 寒梅や雪ひるがへる花のうへ 蓼太 冬の梅あたり払つて咲きにけり 一茶 水底(みなそこ)の岩に落ちつく木の葉かな 丈草 水仙や夜はかくるる月の中 二柳 茶の花に兎の耳のさはるかな 暁台 葱の香や傾城町(けいせいまち)の夕あらし 蝶夢 冬草やはしごかけ置く岡の家 乙二 斧入れて香におどろくや冬木立 蕪村 元日や手を洗ひをる夕ごころ 芥川龍之介 松とりて世ごころ楽し小正月 几董 初春や思ふ事なき懐手(ふところで) 尾崎紅葉 大空のせましと匂ふ初日かな 鳳朗 一村(いっそん)を鼓でよぶや具足餅 史邦 鏡餅母在(ま)して猶(なほ)父恋し 暁台 大津絵の筆のはじめは何仏(なにぼとけ) 芭蕉 大和仮名いの字を児(ちご)の筆始 蕪村 書初やうるしの如き大硯 杉田久女 門松や本町筋の夜の雨 一茶 三椀(さんわん)の雑煮かゆるや長者ぶり 蕪村 年玉の蕪菜(かぶな)かろげや黒木うり 蝶夢 指につく屠蘇も一日匂ひけり 梅室 長松(ちゃうまつ)が親の名で来る御慶かな 野坡 初夢に古郷(ふるさと)を見て涙かな 一茶 春著きるや裾ふみおさへ腰細く 杉田久女 松とりて二日になりしやなぎかな 大江丸 月白うして鳰啼(にほな)くや松納 渡辺水巴 万歳の烏帽子(えぼし)さげ行く夕日かな 闌更 七種やあまれどたらぬものもあり 千代女 やぶ入の寝るやひとりの親の側 太祇 朝の間に摘みてさびしき若菜かな 白雄 草の戸に住むうれしさよ若菜摘 杉田久女 わかみづや流るるうちに去年(こぞ)ことし 千代女 明る夜のほのかにうれし嫁が君 其角 誰が聟(むこ)ぞ歯朶に餅負ふ丑(うし)の年 芭蕉 ゆずり葉の茎も紅(べに)さすあしたかな 園女

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