冬は北山から来る。洛南のほうではよく晴れた日に、
遥かに連なる北山が、群青に翳り、また明るく照り、ま
るで澄みきった水の中のようにはっきり見えているのに、
その山並みの一部分に層を重ねた雲が、灰色をぼかし込
んでいるのを見ることがある。そんな時は、北山のどこ
かに冷たい雨が降りかかっているか、あるいは、小雪で
も舞い落ちているにちがいない。
十二月に入って間もなくの明るい朝だった。高尾の谷
あいには、まだおそい紅葉がわずかに残っていた。栂尾
(とがのお)を過ぎると北の杉山が、うっすらと雪に蔽わ
れているのを見て驚いた。
陽の当る山の斜面は、梢に残された葉の繁みが、粉を
振りかけたように白くなって重なり並び、その間を真直
ぐな幹の列が、明暗の縞模様を描いてリズミカルに連な
っていた。片側の蔭になった暗い谷は、伐採された斜面
だけが白くなって、立ち並ぶ杉の繁みを錆群青の深い色
に沈め、その上に置く雪を青味のあるグレーに見せてい
た。
メニューへ戻ります
|