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ちょっと哀しい話


◎ちょっといい話!


鳥取の、ふとんの話
〔小泉八雲(ラフカディオ・ハーン)の『怪談』から〕

 ムカ〜シ、鳥取に小さな宿屋(Inn)がありました。
  この宿屋の主人は開店して初めてのお客に一人の旅の
商人(Merchant)を迎えました。宿屋は新しい店ではあり
ましたが、お金があまりなかったため、家具などはすべ
て古道具屋から買ってしつらえたものばかりでした。  
 お酒などのたくさんのもてなしを受けたお客は横にな
るとすぐに眠ってしまいました。眠っていると誰もいな
いはずの部屋からもの悲しげな声がきこえてきました。
「あにさん寒かろ」
「おまえ寒かろ」
 二人の子どもの声でした。
 お客は明かりをつけて部屋の中を見回しましたが、だ
れもいません。気のせいかと思いましたが、また、
「あにさん寒かろ」
「おまえ寒かろ」
 という声が聞こえてきました。よく聞くと、掛けてい
るふとんからこの声が聞こえてくるのです。
 気味の悪くなったお客は慌てて勘定をすませ宿をとび
だしていきました。

 つぎの晩も同じようにふとんに怯えた別の客が出てい
ってしまいました。
 はじめは、お客の話を信じていなかった主人もさすが
におかしいと思い、そのふとんを自分で掛けて寝てみる
ことにしました。すると――
「あにさん寒かろ」
「おまえ寒かろ」
 という声がするのでした。
 
 このふとんは、もとは貧しい一家のものでした。
 貧しい家でしたが両親と2人の子供の4人で仲良く暮
らしていました。しかし、あるとき父親が病気で亡くな
り、それを追うように母親まで亡くなってしまったので
す。残された2人の子どもは頼りもなく生きていくため
に身の周りのものを売っていくしかありませんでした。
そして一番最後に残ったのがこのふとんでした。

 ある寒い日、二人がふとんにくるまって寝ていると、
家主が家賃を払えとふたりのところへやってきました。
家賃が払えないふたりは、ふとんを取り上げられ、雪の
降るなか外に放り出されてしまいました。ふたりは寒さ
を凌ごうと抱き合い、いつしか眠ってしまい、永遠に目
覚めることがなかったのです。あまりの寒さにふとんに
魂が取り憑いてしまったのでしょう。
 
 そんなかなしい話を知った宿の主人は、ふとんを供養
してもらいました。
 
 それからは、ふとんがしゃべることはなかったという
ことです。

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