京格子の窓にすだれを下げた家、いかにも京都らしい。
花街のには、二階も京格子の家が多いが、私はふつうの
民家の、一階は京格子の窓、低い二階の壁にむしこの窓
のある家が好きだ。出入口のわきに揚げ棚、または、ば
ったり床几(しょうぎ)と云われる折り畳み式の床几がつ
いている家がある。あれを見ると、子供の頃、夏の夕方
など近所の子供達が集まって、家の前の床几に腰をかけ
て、線香花火で遊んだりしていたことを思い出す。神戸
の下町であったから、私達が腰かけていたのは普通の竹
の縁台である。私自身、家のなかから外の団欒(だんら
ん)を覗いていただけで、仲間に入ることは少なかった
のだが――
商家の看板や、のれんにも心をひかれるものが多い。
二階のむしこ窓と軒を割って、小さな屋根を持つ古風な
看板が頭をもたげているような家は少なくなったが、出
入口の、のれんは、長のれんや、水引きのれんの、紺地
に白抜きの字がくっきりと書かれたものも、麻の白地の
さっぱりした感じのものも、渋い色の紅殻格子とよく調
和もし、また巧みなアクセントになっている。
戦前のことだが、「古き町にて」という連作を描いた
ことがある。ドイツの古い町と日本の古い町の民家を六
枚の作品として纏(まと)めたもので、日本の中には大阪
の寺町や伊那の民家と共に、京都の大仏餅の店を描いた。
あの家も、もう無くなってしまったと聞いている。先
年北欧を旅して、リトグラフの装画本「古き町にて」を
出版したことがある。この、古い町というイメージはい
つも私の心の中にあるもので、私はそこに人間らしい体
臭を感じとることによって、心の落ち着きを見出すので
ある。
メニューへ戻ります
|