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話せば、話に出てきた連中が現に身辺にいないのが、 物足りなくなって来るんだから。 〔『ライ麦畑でつかまえて』J.D.サリンジャー  野崎 孝訳 Little,Brown and Company〕
《ぼくは英雄でもないし、死刑執行人でもない…… ちょっとばかりの苦痛と、ちょっとばかりの快感… …ぼくが彼女に与えたのは、それだけ……ただそれ だけだった……》 〔『青い麦』コレット 手塚伸一訳〕
それはもはや丸い象牙の玩具ではなく、細長い棒か ら突き出される邪悪なエネルギーにもてあそばれて、 目に沁みるばかりの鮮やかな緑色の小宇宙を輾転す る、小さな切ない生命体であった。 〔『道頓堀川』宮本 輝〕
モーリスはフランス語で挨拶を繰り返した。「ボン ・ナネー」 〔『南仏プロヴァンスの12か月』〕
美術の本をかゝへて夢殿へ行くためには何の苦惱も いるまい。 〔『大和古寺風物誌』亀井勝一郎「斑鳩宮」〕
ふりかえると、何マイルも続く海岸線は全く無人で、 ただ彼女の足跡だけがココ椰子の林の方へと続いて いるだけだった。 〔『スコール』森 瑶子〕
その時雨は驟雨に変った。 〔『室蘭まで』曽野綾子〕 ※《その時雨は驟雨に変った》は《そのとき雨は驟 雨に変った》のほうがいいと思う。《ソノ時雨(しぐ れ)は……》と読まれそうなので。
三十数年前の私の行為は時効にかかっているが、私 のいまの衝撃は死ぬまで時効にかかることはあるま い。 〔『天城越え』松本清張〕
田上耕作が、この事実を知らずに死んだのは、不幸 か幸福かわからない。 〔『或る「小倉日記」伝』松本清張〕
対岸に政府軍のポストが見えた。サンパンはその方 へと斜めに川を寄せていく。川蒸気の定期便がつく 小港は、あのそばにある。私たちは腕時計の針を一 時間すすめて、解放区時間からサイゴン時間に合わ せた。 〔『戦場の村』本多勝一〕
彼女をよろこばすどのような幻聴があったのであろ うか。 〔『菊 枕』――ぬい女略歴――松本清張〕
The old man was dreaming about the lions. 〔『老人と海』アーネスト・ミラー・ヘミングウェ イ(1899-1961)〕
ケン・シェフタンの息絶えたハーレムの一角は、ニ ューヨークの営みから切り放されたように信じられ ない静寂の底にいつまでも沈んでいた。 〔『人間の証明』森村誠一〕
窓から流れ込む射光線の明るい小川のなかでぼくは ふたたび腹をかかえて哄笑した。 〔『裸の王様』開高健〕
「やっぱり人間の群れにもどるよりしかたないじゃ ないか」 〔『パニック』開高健〕
煉瓦をおろし、砂漠へ行こう。 〔『流亡記』開高健〕
森は静かだった。 〔『輝ける闇』開高健〕
彼はあの冒険を切り抜けたのが自分の力であること を知っていた。 〔『潮騒』三島由紀夫〕
四十八年前、ぼくが乗った「のぞみ」が本渓湖あた りで夜をむかえ、凍った雪原を走っていた夜空もか すかにうかぶのだけれど、あの夜かくれて見えなか った月が、四十八年目にのぞいたのだった。 〔『瀋陽の月』水上勉〕
居あわした者はみな長いこと狐につままれたような 感じで、実際にその不思議な目を見たのか、それと も単に、あまり長い間古い絵ばかり眺めていたため 目が疲れてしまって、束の間そんな夢幻を見たにす ぎなかったのかわからなかった。 〔『肖像画』ゴーゴリ著 北垣信行訳〕
もっとも、この亡霊は背もはるかに高いし、ひどく 大きな口ひげをたくわえていて、どうやら、オブホ フ橋のほうへ足をむけたようだったが、それっきり 宵闇のなかに姿をかき消してしまったということで ある。 〔『外套』ゴーゴリ著 北垣信行訳〕
塩狩峠は、雲ひとつない明るいまひるだった。 〔『塩狩峠』三浦綾子〕
人生のロマンを読み終えずに、わたしが、オネーギ ンとわかれたように、にわかにそれとわかれるすべ を知っている人は、しあわせである。 〔『エヴゲーニィ・オネーギン』プーシキン著 金 子幸彦訳〕
ふしぎな感情がわたしのよろこびに暗い影をなげか けるのであった。 〔『大尉の娘』プーシキン著 金子幸彦訳〕
彼の、冷たい骸(むくろ)はその場に、情をこめて葬 られた。 〔『青銅の騎士』プーシキン著 谷 耕平訳〕
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