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Vivi estas ami.(生きることは愛すること)

小一時間かけて焼かれしかき餅の色良し香良しカリコリカリッ

太りたるエプロン姿のお上さん犬に引かれて息荒く過ぐ

老人に席を譲りて断られそれより後は躊躇ひにけり

薄明の厨に幾多の什器類ふかき蒼みをおびて異形なり

『心開いて』つい口にするこの言葉、鬱の人には〈責め句〉となるも

点描の写真表現できぬかと考へゐたりあかときの夢

乗合わす船の賓客老人で皆ほがらかによく喋りたり

三年ぶり懐しかりし君なれど相も変らぬ思ひ遣り音痴

呆けにせよ骨粗鬆症にせよ〈知らぬが仏〉、知らざる人は幸ひなるかな

『箱の中は?ドネ・モワ・ドゥーズ、オスィ檸檬(れもん)、ラ・ロシェル シボン・ユィットルなのか!』

『二十四の瞳』にもある〈ちんば〉の語、今流に言へば立派な《差別用語》

マザー・テレサの〈死を待つ人の家〉だからホスピスつねに次の死を持つ

死に去んぬ死に去んぬ灰に作んぬと夢に唱へてひと日ひと日ぞ

『退屈なのはあたまが悪いからなのよ』路上で母子が冴えない論争

タイシルク露天で商ふ小母さんに笑顔と話術で買はされにけり

群なして湿原走る野生馬蹴上げる飛沫宙に輝く

カマルグの野生の馬は音立ててジャポンの菓子屋のショコラを喰ひぬ

ワニの目は金色だなぁと見詰むるに胡散臭げに寝返り打てり

パキスタン医師の馳走は本物のカレーにして時措き汗噴き出づる

うら若きをみないらへる《憎しみ》と、〈連想ゲーム〉で《愛》を問はれて

〔サグレス(葡萄牙)にて〕
ぶつ切りの魚のオイルの炒めもの−醤油でもあらば旨からましを

『声をかけてくださってありがとう』−去りゆく老女の背後(うしろ)が暗い

今夜半透きとほりたるおほ空に天狼星か鋭く青し

海荒れて船旅愉しいたずらなニンフが大波起こすと思へば

〔世界遺産のカテドラルにて〕
石の寺の石の棺に眠りたるバシュコ・ダ・ガマか如何な夢見る

彼らまた苑に焚火を囲みをりよしなしごとを飽かず語りて

幾曲り車通れぬ路地挟み三階建ての民家犇く

ファド歌謡伯剌西爾人に聴かせれば西班牙語なりとて聴くを止めにき

バンコクのホテルの朝(あした)粥今し素焼きの壷に炊けてうれしも
欧州よりバンコクに来ぬ粥その他ありてしみじみ東洋を感ず

〔恐ろしく硬いパンの食べ方を米人夫婦に尋ねる。
「こんなにハードなのは初めてです。ナイフが入らない。
ドイツのより硬いなんて。バスクの人たちは顎が強いんですね。」
「手を使いなさい、手を!」と旦那さん。 奥様は―― 〕
『固パンは縦に切り込み手でちぎれ』やったら出来たが『パーフェクト!』なんて

快く志野の茶碗を与へしが肉ジャガ容れに使われにけり

天に鳥、海に波切る漁船ありていま赫赫(かくかく)と日が昇り来る

北斎の地中海かと思はるる港のカフェのリトグラフ佳し

あかあかと焼かるる鍋に具は舞ひて中華料理をいざ味ははむ

何ゆゑに開かずなりし『大言海』活眼にして惚けてもをらぬに

カフェオレにクロワッサンの朝が来て真白きテラスに紫煙が揺れる

犬ふぐり黄色く揺るる寺の庭ほのと顕ちくる秩父路の旅

寝たきりの人指一本で麗しき歌作るなりPCの世は

他人故やさしくできると介護人よくわかりますあなたの気持ち

院出ればいたはる人らもはやなし故に完治を厭ふ老人

モジリアーニの描きし女首かしげうつろなまなこを虚空にひらく

韃靼(だったん)に眠れる兵の遺族探しゆっくり手繰れ記憶の細糸

『福祉施設は虐めの温床です』耳の後ろで囁く声す

「タヒチ語に似てる」といへばマオリ語を教へし人はじっと吾見る

二百もの不規則変化の前置詞が学ぶ気を殺ぐアイスランド語

口開けば己の信念説くあなたそれなら藝で見せてみなさい

行間に鬱あり実体不明なり文明解にして読む力殺(そ)ぐ

「今アタシどこにも住んでいないのよ」遠くを見てる女の瞳

夜の更けに《蒼き狼》読み耽りて確かに聞きしウルムチの琴

アメリカの獄中に成る叙情歌にただ感動す、〈罪〉とは別さ

ジャコメッティ彫刻のやうな病婦人眼光炯炯とひたすら歩く

痴呆?なるクランケ応ふ『美味しいです、訊かれないので黙ってましたが』

白銀に合歓の葉そよぎ海亀は万里の旅の夢にまどろむ

たそがれの潮鳴りひびく白き浜大待宵草揺れやまずけり

笑い顔かがやかせつつ少年は泥んこになってザリガニを獲る

『Ido和辞書』三百ページの手書き手作り、ひょっこり見つかりしばし撫でゐつ

ホテル『ニサ』は木製の床、寝台も最上階の眺望もよし

キー操作さほどの苦労とは知らざりし聾唖の君のメール尊し

髪飾る花びら散らし掻き鳴らす弦も切れるかスペインの夜

生還せし回天特攻兵がなほ閉じ込めんとする思ひとは何

精神病再発したる友人になす術もなし朋とは言へど

木漏れ日の揺るるがごとく幾すぢも異形の木根を垂らすガジュマル

ロカ岬荒涼として大海は深藍色に空を拒絶す

午前二時車道をつつむ濃き霧に尾灯の赤≠ェ滲みつつ消ゆ

愉しげに白髪婦人食事する、コンビニ前の石に座りて
『あのご婦人、無銭飲食なんです』と、そおっと囁く蕎麦屋の亭主
小づくりで見かけ品良き老婦人、無銭飲食常習者とか

〔一万石の城下町。父のふるさとへ松尾芭蕉の句碑を見に行く。
翁の訪れの記録はないが三基あることが、小さな城下の俳諧人気を偲ばせる。
訪れるも,句碑のない一茶が気の毒である。……
  清水寺   観音の甍見やりつ花の雲 
  金毘羅神社 時雨るるや田のある株のくろむほど  
  水天宮   あけぼのや二十七夜も三日の月  〕


【清水寺にて】
ゑみ浮かべ和顔愛語と諭したる大き眼の澄みにけるかな
輕らかな木の鳴る音に振り向けば数多の絵馬に春の風吹く
蓮の葉の茎を抱きて座しませる観世音菩薩の静かなる貌

【金毘羅神社にて】
風光る翡翠の色の水の辺に一人一句の古き石ぶみ
バス仕立て寒鮒釣りに来しといふ昔の川に返りにしかは

【水天宮にて】
薄衣の襞とも見えてやはらかく川面うねれり春の日落ちて
緑濃きまろき浮葉の揺れゐたり神影の池の漣の中


文化は、
遊びとして始まるのでもなく、
遊びから始まるのでもない。
遊びの中に始まるのだ。


  J・ホイジンガ 『ホモ・ルーデンス』



Web上で出遭った歌では
ディナーショー 嫁と二人でおしゃれして リッチな気分で 今日は貴婦人
【短歌の散歩道〜あけみのうた...】 URL : http://isweb21.infoseek.co.jp/novel/akemi21/index.htm
悦 子
という神戸市在住の女性の詠みぶりが気に入っています。


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