放哉原句…………▽
井泉水の添削……◇
井泉水……1884.06.16〜1976.05.20
放哉………1885.01.20〜1926.04.07
▽都のはやりうたうたってあめ売りに来る
◇都のはやりうたうたって島のあめ売り
▽いつも泣いて居る女の絵が気になる壁の新聞
◇壁の新聞の女はいつも泣いて居る
▽海が少し見へる小さい窓一つもち事たる
◇海が少し見へる小さい窓一つもつ
▽来る船来る船に島一つ座れり
◇来る船来る船に一つの島
▽口あけぬ蜆淋しや
◇口あけぬ蜆死んでゐる
▽麦がすっかり蒔かれた庵のぐるりは
◇麦がすっかり蒔かれた庵のぐるり
▽ゆうべ杓の底がぬけた今朝になって居た
◇ゆうべ底がぬけた柄杓で朝
▽今朝の霜濃し先生として出かける
◇今朝の霜濃し先生として行く
▽流れに沿ひ一日歩いてとまる
◇流れに沿うて歩いてとまる
▽寒なぎの船帆を下ろし帆柱
◇寒なぎの帆を下ろし帆柱
▽血豆をつぶす松の葉を得物とす
◇血豆をつぶそう松の葉がある
▽手作りの吹き竹で火を吹けばをこるは
◇手作りの吹き竹で火が起きてくる
▽胴像に悪口ついて行ってしまったは
◇胴像に悪口ついて行ってしまった
▽豆を煮つめる一日くつくつ煮つめる
◇豆を煮つめる自分の一日だった
▽卵子二つだけ買うてもどる両方のたもと
◇卵子袂に一つづつ買うてもどる
▽お粥をすする音のふたをする
◇お粥煮えてくる音の鍋ふた
▽一つ二つ蛍見てたずね来りし
◇一つ二つ蛍見てたづぬる家
▽朝が奇麗になってるでせうお遍路さん
◇朝がきれいで鈴を振るお遍路さん
▽夕空見てから晩めしにする
◇夕空見てから夜食の箸とる
▽山奥木引き男の子連れたり
◇山奥の木引きと其男の子
▽光ること忘れて死んでしまった蛍
◇蛍光らない堅くなってゐる
▽御祭寝てゐる赤ン坊
◇御祭赤ン坊寝てゐる
▽夫婦で相談してる旅人とし
◇旅人夫婦で相談してゐる
▽草をぬく泥手がかはく海風の光り
◇草をぬく泥手がかはく海風光り
▽時計が動いて居る寺の荒れてゐること
◇時計が動いている寺の荒れてゐる
▽すっかり暮れ切るまで庵の障子あけて置く
◇障子あけて置く海も暮れ切る
▽母子暮しの小さい家であった
◇小さい家で母と子とゐる
▽大晦日暮れた掛取も来てくれぬ
◇掛取も来てくれぬ大晦日も独り
▽明け方ひそかなる波よせ
◇ひそかに波よせ明けてゐる
▽雑草に海光るお寺のやけ跡
◇雑草に海光るやけ跡
▽松かさそっくり火になった冬朝
◇松かさそっくり火になった
▽家うちに居て芒が枯れて行く
◇こもり居て芒が枯れ行く
▽花がいろいろ咲いてみんな売られる花
◇花がいろいろ咲いてみんな売られる
▽わが顔があった小さい鏡を買うてもどって来る
◇わが顔があった小さい鏡買うてもどる
▽乞食日の丸の旗の風ろしきになんでもほりこむ
◇乞食日の丸の旗の風ろしきをもつ
▽陽が出る前の山山濡れた烏をとばす
◇陽が出る前の濡れた烏とんでる
▽送って来たまんまの犬で居りけり
◇送って来たまんまの犬である
▽風のなかに立ち信心申して居る
◇風にふかれ信心申して居る
▽自分ばかりの道の冬の石橋
◇自分が通っただけの冬ざれの石橋
▽人間並の風邪の熱出して居るよ
◇人間並の風邪の熱出して居ることよ
▽早さとぶ小鳥見て山路を行く
◇早さとぶ小鳥見て山路行く
▽爪切ったゆびが十本眼の前にある
◇爪切ったゆびが十本にある
▽風吹く道のめくらなりけり
◇風吹く道のめくら
▽絵のうまい児が遊びに来て居るよ
◇絵の書きたい児が遊びに来て居る
▽汽車通るま下た草ひく顔をあげず
◇背を汽車通る草ひく顔をあげず
▽乞食に話しかける心ある草もゆ
◇乞食に話しかける我となって草もゆ
▽かぎりなく蟻が出てくる蟻の穴音なく
◇かぎりなく蟻が出てくる穴の音なく
▽あらしが一本の柳をもみくちゃにする夜明けの橋
◇あらしが一本の柳に夜明けの橋
▽どうせ濡れてしまったざんざんぶりの草の蛍
◇どうせ濡れてしまった夜空の草の蛍
▽盆休み雨となりぬ島の小さい家々
◇盆休み雨となった島の小さい家々
▽蜥蜴の切れた尾がぴんぴんしてゐる太陽
◇蜥蜴の切れた尾がはねてゐる太陽
▽窓の朝風と仲ようして居る鉢花
◇窓には朝風の鉢花
▽淋しいから寝てしまをう
◇淋しい寝る本がない
▽草花たくさん咲いて児等が留守番してゐる
◇草花たくさん咲いて児が留守番してゐる
▽障子の穴から覗いても見る留守である
◇障子の穴から覗いて見ても留守である
▽こはれた火鉢でも元日の餅がやける
◇こはれた火鉢で元日の餅がやける
▽山の上の芋堀りに行く朝のスットコ被り
◇山の芋堀りに行くスットコ被り
▽わが家の前の冬木ニ三本
◇わが家の冬木ニ三本
▽夜釣りからもどったこんな小さい舟だ
◇夜釣りからあけてもどった小さい舟だ
▽雪積もる夜の燃え座はるランプ
◇雪積もる夜のランプ
▽たった一人分の米白々と洗ひあげたる
◇一人分の米白々と洗ひあげたる
▽腹の臍に湯をかけて一人夜中の温泉である
◇臍に湯をかけて一人夜中の温泉である
▽わが髪の美くしさもてあまして居る
◇髪の美くしさもてあまして居る
▽朝のうちにさっさと大根の種まいて行ってしまった
◇さっさと大根の種まいて行ってしまった
▽雑草に海光るお寺のやけ跡
◇雑草に海光るやけ跡
▽久し振りの雨の雨だれの音よ
◇久し振りの雨の雨だれの音
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