待ちかねた春が来た
なるほど そうだ 春が来ているのだ
木々は だらりと 枝を垂れ 窓は おどろいている
空気はやわらかい まるで 綿毛でできているよう
そして ほかのことは みんな どうでもいい
今は すべてのオス犬に 花嫁が必要だ
そして ポーニ・ヒュ―チヘンは わたしに言った
太陽には ちいさな 温い手があって
その手であたしの肌を 這いまわるのよ
門番たちは 誇らかに 家の前に立ち
ひとは またしても カフェーのテラスにこしをかけ
もはや 寒さを感じない そして 堂々と姿を見せるこ
とができる
小さな子供たちのいる者は 郊外につれて出る
たいがいのお嬢さんたちは ひざに ちからがない
そして 甘いクリームが 血管を 流れている
空には ピカピカの飛行船が 踊っている
ひとは うきうきする そして なぜだか知らない
よろしく また 散歩に出るべしだ
青も 赤も 緑も すっかり 色があせてしまった
春だ 地上が 新規に 塗りかえられるのだ
人間は ほほえむ おたがいが 理解しあうまで
こころは竹馬にのり まちを 歩く
バルコニーには チョッキを着ていない男たちが 立ち
木箱に たがらしを 蒔いている
あんな木箱のあるやつは しあわせだ
庭は もはや 見かけが 裸なだけ
太陽は 暖房して 冬に復讐する
毎年 おなじことながら
さすがに いつも 初めてのようだ
春は前借りで
草はらは まだ 全然 みどりではない
草は くしけずらず 森の中に立ち
まるで 千年もたったよう
だから もうじき ここに ふうりん草が
咲くのかしら と ひとは思う
葉は なが年の 勤務につかれ
あっちで カサカサ こっちで カサカサ
まるでバタパンの包み紙が カサカサ鳴るように
風が 森の上で ピアノをひいている
あるいは高く あるいは低く
しかし 人生を知る者は 知っている
きっと ことしも
例年のように なることを
森の中に 一組の夫婦が すわり
春を待っている
そのために ふたりを 非難してはいけない
たしかに 彼らは 自然を愛している
そして 森や野はらに すわりたいのだ
気持ちは 十分 わかる ただ
風邪をひかなきゃいいが
簿記係が母親へ
お母さん きょう洗濯物をうけとりました
どんなにお負けをしても ぎりぎりいっぱい というと
こでした
郵便屋は もう1分で まにあわないとこでした
どう思います ぼくのカラーはだぶだぶです
ふしぎはありません ヒルダとの問題で 休むまもない
のですから
この月給では ぼくは結婚しません
ぼくは そのことを彼女に説明しました そして 今
彼女は はっきり了解しました
これ以上 彼女は待ちません でないと 彼女は齢をと
りぎます
お手紙によると ぼくが お母さんの手紙を読まないと
のこと
そして お母さんは もう はがきだけしかよこさない
とのこと
お手紙によると ぼくはお母さんのことを わすれてし
まった と思っていらっしゃるとのことと
思いちがいです とんでもない……
どんなに もっとたびたび もっとくわしく書きたいか
しれません
いつもの あんな週報だけでなしに
ぼくは思っていました ぼくがお母さんを愛しているこ
とを お母さんはご存じだと
この前の手紙でみると お母さんは それをご存じない
のです
ぼくは いま すわりどおしで計算をし 帳面つけをし
ています
5桁の数字を そして いくらやっても ほとんどきり
がなさそうです
何か ひとつ ほかの仕事をさがすべきでしょうか
いちばんいいのは どこか ほかの都会で
ぼくは とにかく ばかではありません でもなかなか
うまくいかないのです
ぼくは 生きてはいますが たいして生きているような
気がしないのです
ぼくは 一つの支線で生きているのです
これは わびしいばかりではありません 気もすすまな
いのです
お手紙によると 日曜日は ブレスラウから来るようで
すね
ときに あれはどうなりおましたか ぼくがおねがいし
た
洗濯婦は お雇いになりましたか
ブレスラウの人たちが来たら ぼくからよろしくいって
ください
極上の天気
あんなに悲しかった日は どこへいったのか
あんなにぼくたちを参らせていた 悲しさは
陽はかがやき ことしは順調だ
しゃくにさわって どなりながら 飛びだしたいようだ
風船玉になって 青空いっぱいに
緑の木々は まっさらに洗われている
空は 巨きな 青い 琥珀織でできている
日光は クツクツわらいながら 鬼ごっこをする
ひとは すわって ほほえみ 親密な近所づきあいをす
る
飛ぼうと思えば 飛べそうな気がする
椅子をはなれ コーヒーとお菓子をもって
ソファにねるように 白い雲の上にねて
ときどき 前にかがんで 考える
「それじゃ あそこのあれがシュプレー河だ」
花と話ができるだろう
そして 婚約者をさするように 牧場をさすることも
自分を みじんに分裂させ
感動のあまり 合掌することができるかもしれない
手なんて もう ほとんどそのためにつくられてはいな
いのだが
ひとは 疑問でいっぱいになり 髪をひっぱる
陽はかがやく また分別をとりもどしたかのように
あんなに悲しかった日は どこへ行ったのか
断然 しゃくにさわって 飛びだしたいようだ
ただ いちばんこまる問題は どこへ ということだ
気圧の葛藤
樹々は横目で 空をジロリ
天気をしらべて ささやく
「ことしは まるっきり わからん
さて いっしょに葉を出したものか
ひっこめたものか
それとも どうだろう」
あたたかだったのが また うすら寒くなった
給仕たちは青くなり
のべつ 気にする
「これじゃ いっしょに 椅子を出したものか
ひっこめたものか
それとも どうだろうな」
男女づれは 夜ふけ 明りを避ける
並木道のベンチに ちょいとためしに
こしをかけ 考える
「感情を出したものか
ひっこめたものか
それとも やっぱり」
春は ことしは神経に来て
言わゆる血に まるっきり来ない
太陽を罐詰にして配達するやつは誰だ?
まあ うまくいけば
いまは すべて
よくなる
もうあたたかだ このままつづくだろうか?
つぼみは駆け足ではじまる
そして 心も花を咲かせたがっている
それゆえ 椅子を出すべし
そして 感情をひこっこめるべし
あたかも!
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